冒頭に掲げたのは、11月19日の「毎日」夕刊に載った記事だ。
東京都の「葛西臨海水族館」の建て替えが検討されているが、同水族館は世界的建築家の谷口吉生氏が設計、その斬新な展示手法は高く評価され、その後の巨大水族館ブームの先駆けになったことから、日本建築学会は保存し、再利用を求めているという内容だ。
東京都がカネを出した公共建築のなかで、「唯一無二の価値を持つ」と日本建築学会は評価し保存を呼びかけているわけだが、実は東京都世田谷区が建設した公共建築である世田谷区第一庁舎と、隣接する区民会館についても、いま、地元の建築家有志などにより保存を求める声が上がっている。
こちらの設計を手がけたのは前川国男氏(下右写真。故人)。
わが国の近代建築を牽引した建築家で、東京文化会館、東京都美術館、神奈川県の県立音楽堂、埼玉県の埼玉会館などもそう。
とりわけ、1959年竣工の世田谷区第一庁舎、60年の区民会館は、戦後の民主主義を体現する公共建築として評価が高い。
第一庁舎と区民会館に囲まれた広場ーー周りはたくさんのケヤキの緑に囲まれ、噴水があり、しかも塀も門もない。誰でも来て休み、子どもが遊び回れる。しかも第一庁舎は5階、区民会館は2階と低層なので、なおさら圧迫感のないまさに広場そのもの。
その5階建て第一庁舎にしても、1階まで自然光が差し込む。
こちらは築60年ということで、なおさら区は老朽化、耐震性に問題ありとして建て替えを言い出し、しかもこちらはすでに区庁舎(他に第二、三庁舎がある。第二は前川氏、第三は別人設計)全体の建て替えが決まり、17年9月、公募型プロポーザルで「佐藤総合計画」の基本設計が選ばれ、今年3月に同設計を終えている。
現在、実施設計が、同じ佐藤総合計画により行われており、予定では20年8月終了。そして21年2月には建設に着手し、26年5月の完成を目指す。
ところが、ここに来て、地元建築家や区民有志がこの建築計画を見直せとの運動が起き、区民有志による「記憶をつなぎ人をつなぐ世田谷区庁舎をのぞむ会」(16年9月発足)が5月に前川氏のトークイベントを開催、8月には区役所ツアー、11月には地元建築家と緊急区民会議を開く(上左写真はそのビラ)などしている。
当初、保坂展人区長も保存したいといっていたのに変節、また佐藤総合計画に決まったプロポーザル方式の内容にも疑義があるという。