あなたが祖父の代から住む自宅の周りは、お寺を中心とした緑と、低層住宅が並ぶ閑静な住宅街。実に気に入っているとしよう。
ところが、突如、地元自治体はこの一帯は高さ25Mまでは建てていいと地区計画を決定。25Mといえば、8階建て相当。結果、地上げが進み、あっという間にあなたの自宅の前に、壁のような8階建てビルが。日照は遮られ、風は流れなくなり、そして騒音も激しくなり……。
このような事態が、東京都世田谷区下馬2丁目などの住宅地で起きようとしている。
同地区は西澄寺というお寺の緑があり、10M以上の建物は1棟しかないまさに閑静な住宅街(冒頭写真)。ところが、世田谷区は今年3月、突如、同地区の高さ最高限度を25Mにする地区計画案を発表した。
8月21日(金)午後2時から、世田谷区役所のすぐ横の大学研究室で、この「世田谷区都市計画審議会」が開催され、平日にも拘わらず傍聴席は地元住民で満杯に。
この審議会、学識経験者や区議会議員などからなる委員計20名、それに区役所職員の幹事12名から構成されており、約2時間のこの日の審議会は、世田谷総合支所街づくり課長の伊東友忠氏の説明、答弁が中心となったが、審議会委員で区議会議員の7名ほぼ全員が「住民無視」ではないかとの趣旨の質問を行う異例の事態に。
桜井稔議員など、世田谷区は9月16日から都市計画法17条に基く地区計画の公告を行う予定だが、それを延期すべきだと宣言した。
もちろん、全国では様々な都市計画が進められており世田谷区はその一つに過ぎない。そして開発を進めようとする行政側と、地元住民の意見が対立するのはむしろ当然ともいえる。
それにも拘わらず、今回、本紙がこの世田谷区のケースを取り上げるのは、世田谷区は10年度から懇談会、説明会、アンケート調査などを行い、住民の声を十分拾って来たというが、その実態はといえば、住民の声を拾ったとする“アリバイ作り”に過ぎないどころか、騙しとさえ思わずにいられない事実さえある。そして、こうしたことは全国の他の自治体の地区計画を進める上でも多々あると思われるからだ。
今回、世田谷区が進める地区計画の対象地域は、昭和女子大学や都営下馬アパート、公務員宿舎など規模の大きな敷地と戸建住宅が混在する北側の“文教住宅地区”と、反対、疑問の声が出ている戸建住宅中心の南側の“住宅地区”の2つに大きくは分けられる(上図参照のこと)。
すでに文教住宅地区の方では都営住宅の建替が行われており、8階、11階建ての新しい都営住宅が出現している(上写真)。