インターネット上の宣伝で「全国対応」、「10年保証」、「業界最大級」などと謳い、急激に売上を伸ばして来た給湯器交換業者。
給湯器の高効率化・電化促進は、脱炭素政策という国策にも合致。補助金制度もあり好条件が整い、今後まだまだ伸びるとも見られている。
ところが、すでに売上は減少し、発注は絞られ、現場は疲弊して来ているという。
この連載の第1回では、自社をネット上で目立つようにするためのSEO対策には高コストがかかっていること、第2回目では取り替えた給湯器の産廃処分問題を取り上げた。
第3回目の今回は「組織としての営業力が十分に構築されていなかった」件を取り上げる。
■国策に寄り添うはずの事業で、なぜ営業は空洞化したのか?
結論を先にいえば、この業界にあってはSEOだけに頼り、「営業戦略」など皆無だったからだ。
営業とは本来「市場を読む力」、「顧客ニーズを把握する力」、「価格以外の価値を伝える力」、「継続的な関係を築く力」などで成り立つはずだ。
しかし、現実はそんな「営業」はなく、「集客機能」だけだった。
この事業モデルを支えたのはSEOと広告である。
検索順位を押さえ、問い合わせを集め、数字を積み上げる。
だが、SEOは営業ではない。SEOは原価であり、コストである。
広告費が止まれば、問い合わせは止まる。
これでは、持続的なビジネスモデルとは言い難い。
蛇口をひねり続けなければ水が出ない構造だ。
営業力がない組織ほどSEOを「営業」と勘違いする。そして、こう信じ込む。
「数字が出ている限り、やり方は正しい」。それは、最も危険な錯覚である。
そしてこの錯覚こそが、後に営業組織を内側から崩していく引き金となる。
このモデルが誤ったのはSEOを伸ばしたことではない。SEOを「営業そのもの」と誤認したことだと告発して来た現場の者(以下X氏とする)は断言する。
■SEO戦略が内包する「致命的な弱点」
SEO戦略は、正しく使えば有効な集客手段である。
しかし、それは営業戦略の一部であり、事業そのものの土台ではない。
この区別を誤った瞬間、SEOは武器ではなく、組織を縛る「足かせ」へと変わるとX氏はいう。
営業とは本来「顧客との信頼」、「紹介」、「リピート」、「地域での評価」といった時間をかけて積み上がっていく資産によって成り立つ。
一方、SEOは違う。止めた瞬間、成果はゼロに戻る。
広告費・外注費・人件費を毎月注ぎ続けなければ、問い合わせは維持できない。
つまりSEOとは、未来をつくる手段ではなく、「今月の数字を維持するためにコストを投じ続ける行為」に近い。
■SEO依存=価格競争から逃げられない構造
SEOで集まる顧客は、比較検討層である。
「価格」、「即日」、「保証年数」などの条件で横並びに比較された瞬間、最後に残る判断軸は「安さ」になる。
営業力があれば「なぜこの価格なのか」、「なぜこの施工なのか」、「なぜこの会社なのか」を言葉と実績で説明して納得してもらうことも可能だ。
しかし営業力が十分に構築されていない組織では、SEOによる集客は、そのまま値下げ圧力として跳ね返って来る。
結果として起きるのは「利益率は下がる」、「固定費は下がらない」、「しわ寄せは現場や協力会社に集中する」という、持続性を欠いた構造である。
■SEOは「異変」に極端に弱い
SEO戦略は「ネガティブな情報発信」、「行政による調査・指導」、「内部告発や評判の変化」などの「外部変化」に対して極端に弱い。
検索結果に一つ疑念が生じただけで「問い合わせは激減」、「広告単価は高騰」、「集客効率は一気に崩れる」こととなり回復に長期間を要するケースも少なくない。
営業力があれば既存顧客・紹介・地域での信頼によって耐えることもできる。
しかし、SEOへの依存度が高い企業ほどこうした変化に対する対策が出来ない。
■SEOは「組織の寿命を縮める」
SEOは「営業を育てなくても数字が立つ」、「現場と深く向き合わなくても受注が入る」、「不都合な声を後回しできる」といった点で、短期的にはひじょうに楽な手法である。
しかしその裏側で「営業力は育たない」、「組織に知見が蓄積されない」、「問題が表面化した瞬間に耐えられない」という、極めて大きな代償を支払うことになる。
SEOへの依存度が高い組織は、自転車操業と同じ構造を持つ。
止まれば終わる。走り続ける以外の選択肢を持たない。
■単一商材依存という致命的な弱点
加えて、この業界は給湯器という単一商材に依存している。一見すると効率的に見えるかも知れない。
しかし、現実は「暖冬によって故障が減る」、「修理して使われる」、「競合事業者が無数に存在する」といった極めて不安定な環境にある。
需要予測は難しく、価格競争は激化し、差別化も容易ではない。
にも拘わらず、それを前提とした営業戦略は存在しなかった。



