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<書籍紹介>『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』(辻野弥生著。五月書房新社)

 9月1日に発生した関東大震災から今年はちょうど100年目に当たることから、例年以上にいろんなイベントが催されるようだ。
本日の「毎日」トップでも、関東大震災が起きた直後、「井戸に毒を入れた」といったデマを信じた日本人に命を奪われた朝鮮人虐殺の史実を学ぶ若者グループ「百年(ペンニョン)」の活動が取り上げられている(下右写真)。
同記事によれば、大震災では関東圏で約10万人が亡くなったそうだが、国の防災会議が2009年にまとめた報告書さえも、その10万人の死者の内1~数%(1000から数千人)は襲撃の犠牲になったと推計している。
しかも、その推計値は朝鮮人だけでなく、中国人、そして朝鮮人と間違えられた日本人も含まれる。
「福田村事件」とは、現在の千葉県野田市三ツ掘にあった村の住民数百人が鎌などで襲い、香川県から薬の行商に来ていた一行15名の内9名を惨殺した事件。そのなかには2、4、6歳の子どももいた。
 讃岐弁を話す行商人を、地元民は「お前らの言葉はどうも変だ。朝鮮人ではないか」と言いがかりを付け、行商用の鑑札を持っていたにも拘わらず殺害したという。
むろん、筆者が言いたいのは、なぜ朝鮮人と間違えたのかではなく、朝鮮人にしろ、日本人にしろ、何の罪もないマイノリティ(行商人は被差別部落出身者だったとも)を寄って集って殺す悲劇を二度と繰り返してはいけないということだ。
歴史好きの平凡な主婦だった筆者は、ほとんど闇に埋もれていた同事件のことを1999年にしろ、福田村と同じ地方の出身者ということもあり、関係資料の発掘、そして関係者を訪ね歩き、10年前に書籍化。だが、その出版社が閉業により同書が絶版するなか、この7月、増補改訂して五月書房新社より出された。
恥ずかしながら、本紙・山岡はこの事件のことを知らなかったが、五月書房オーナーが以前からの友人という縁で知り、献本してもらい、こうして紹介しているわけだ。
そして、関東大震災が起きた今年の9月1日に合わせ、森達也氏の初めての劇映画となる「福田村事件」が公開されることになっている。
その森監督は同書に特別寄稿し、行商人一家を殺害した村人の行為は「けだもの」そのものだが、人は環境によって「けだもの」にも「紳士淑女」にもなる。普段は善良でも、その「善良な人が善良な人を殺す」恐ろしさをズバリ指摘している。
 同書によれば、虐殺した村民は何の罪悪感もなく、むしろ国家にとって善いことをした(内務省が朝鮮人が爆弾所持し、石油を撒いて放火する者もあるので取り調べしろと打電したデマが契機となっている)と胸を張り、なぜ罪に問われないといけないのかと堂々と法廷で演説したという。そして刑期は最高でも10年で、他の村人は同情し、刑期中残った家族に寄付し、農繁期には手伝い、釈放後、地方議会の公職に就いた者もいるという。
ヘイト主義が蔓延る現代、決して昔の話ではないということだ。
新右翼の鈴木邦男氏は「愛国者に気をつけろ!」というドキュメント映画の主演をしていた。バリバリの右翼にして、普段から声高にそういうことを叫ぶ者は偽者と茶化したタイトルだが、前出の森監督は同書への特別寄稿のなかで、例の愛知の「表現の不自由展・その後」につき、松井一郎大阪市長(当時)が「日本国民の心を踏みにじる行為」などとツイートし、開催中止を求めたことを取り上げている。彼ら(吉村洋文・大阪府知事)のような者も偽者ということだろう。そして、そんな「維新」が有権者の支持を受け当選者が急増しているのも気になるところだ。
(2000円+税。五月書房新社

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