わが国大手マスコミはまったくというほど無視しているが、東京五輪開催中の国立競技場のJR最寄り駅「千駄ヶ谷駅」前で、フランス人のヴィンセント・フィショ氏(冒頭写真。39)は7月10日からハンガー・ストライキを行っている。「APF」(仏)、「ワシントン・ポスト」(米)、「フィナンシャル・タイムズ」(英)などの海外主要マスコミの多くは報じているのにだ。
本紙が親権問題に取り組む「桜の会」の平山雄一郎代表から情報を得て即、現場を訪ねたのは7月29日夕方。もう体力的に限界で引き上げた可能性もあると思っていたがまだいて、名刺を渡し写真許可を求めると、こちらをまっすぐ見据え、撮影後に日本語で「ありがとう」と言ってくれた。
現場では同国人と思われる支援者が10人ほど見守っていたが、日本人らしい者は一人も見なかった。
ヴィンセント氏は15年前に来日。つい最近まで野村證券に勤めていた。日本人女性と結婚。2人の子どもをもうけたが、妻は18年8月10日、自宅から子どもを連れ去り(家財道具も車も)。以来、今日まですでに丸3年近く子どもと会えていない。
離婚裁判中で、ヴィンセント氏も未だ2人の子どもの親権を妻と共同で持っているが、家庭裁判所は離婚までの監護権者に妻側を指定。妻のドメスティック・バイオレンス(DV)を受けたとの虚偽の訴え、それにすでに長期に渡り妻が子どもと一緒に暮らしている事実を追認してのことだろう。
本紙既報の親権に関する連載を見ていただけばわかるが、世界の主要な国のほとんどは離婚後も「協同親権」を認めているが、わが国は「単独親権」制度で、連れ去った側に「継続性の原則」という不可解な理屈で、例え子どもが関係を切り裂かれた親側と暮らしたいと訴えてもまず認められることはない。
ただし、ヴィンセント氏の場合、国際結婚で、フランスは「共同親権」制度。そして、フランスにおいては一方の親が黙って子どもを連れ去ることは基本的に「誘拐(拉致)」と見做す。
実はヴィンセント氏、19年、在日フランス大使館でフランスのエマニュエル・マクロン大統領と会い、このわが国における時代遅れ、子どもの人権さえ無視した状況を訴えている(ヴィンセント氏の父親はフランスの高官)。
そして、同情したマクロン大統領は当時の安倍晋三首相に2度に渡り問題解決を要請。しかし、安倍氏はこれも無視した。
その後、欧州議会(EU)本会議でわが国の子ども連れ去り問題について非難決議(20年)。ヴィンセント氏は外国人記者クラブで複数回会見するなどしたがこの親権問題、何ら進展は見られなかった。
本紙でも既報のように、今年3月に、ようやく法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会で共同親権に関しても議題になったとはいえ、法改正されるとは限らない。
そこでヴィンセント氏は仕事を辞め、子どもたちとの思いの詰まった自由が丘の家を売却。プロ棋士だった橋本崇載氏のようにすべてを捨てて闘うことを決意。ハンガー・ストライキを開始したという。