筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
トランプ2.0で世界は大変なことになった。まるでブラックコメディ風味の近未来SFみたいな展開だけど、先日、トランプの若い時代を描いた実録ドラマ『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』(監督アリ・アッバシ)を観てきた。てっきり大統領就任祝いにトランプを思いっきりヨイショしている映画かと思っていたら、結構エグイ。本人が観たら「俺をコケにする気か!」と怒りだすだろう。詳しい中身は未見の人のためにここでは触れないが、興味深いのはトランプが若手実業家としてのし上がる1970~80年代、20代から40代くらいのところだ。
そのころの社会風俗、街の風景、ファッション、ヘアスタイル、流行語、ヒット曲、口説き方、パーティの様子、車などが緻密に再現されていて、あの頃のアメリカ映画を観ているようで懐かしくなる。この頃のトランプは、酒も飲まず、センスも悪く、教養もなく、女性に優しくなく、洗練されていない。やっぱり今のトランプの若い頃だなあと感じさせるところは映画としてうまい。そのトランプを怪物に育て上げるのが弁護士ロイ・コーンだ。これが不気味なキャラクターで、50年代には「赤狩り」の急先鋒で活動、のちにニクソンやレーガンの顧問も務めた極右レイシストなのだ。映画の中でもニュースでニクソンやレーガンが登場するが、それを観ていたトランプはまさか大統領になるとは夢にも思わない。しかし、後半になると顔つきも本物に近づいてゆく。