一般人には聞き慣れない「押し紙」問題。それは本書に倣って簡単に説明すると、大手新聞社が、新聞販売店に対して、ノルマとして買い取りを強制している新聞のことだ。
新聞の発行部数は凋落が著しい。しかしそれでも経営が維持できているのは、再販制度(価格競争がない)、学習指導要領(学校教育で新聞を使用させる)、消費税の軽減税率(8%)など、いくつかの公権力による優遇策があるが、なかでも「押し紙」を公権力が黙認していることこそが最大の経済的メリットを新聞社にもたらしている、と著者は指摘する。
数字で言えば、「押し紙」による年間の被害額は932億円に上るという。この数字は、統一教会による高額献金や霊感商法による被害額が、35年間で総額1237億円であること(本書126ページ)と比べると、いかに巨額であるかがわかる。
どうしてこんなことがまかり通るのか。「新聞の商取引は、普通の商取引とは異なる。『注文部数』を新聞社が決めるのである。このような制度は他の業種ではあり得ない」(46ページ)ことが核心にあり、立場の弱い新聞販売店がそのツケを払わされている。
本書では前半で「押し紙」問題の被害を克明に実証し、後半でこうした歪んだビジネスモデルに公権力のメスがなぜ入らないのかを追求している。
本紙は過去、著者・黒藪氏を提訴した読売新聞を、「押し紙」報道に対する報復ではないかと批判する記事を掲載したことがある。
2020年、佐賀地裁は佐賀新聞を被告とする「押し紙」裁判で、これを独禁法違反として原告の請求を認めた(控訴審で和解が成立)。黒藪氏の本書はこうした流れを促し、大新聞社がまさに保身のために一切報じない「押し紙」問題を暴く決定打となるだろう。
(鹿砦社、本体1300円)