アクセスジャーナル記者 山岡俊介の取材メモ

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<書評>『宣政 元気ですか――人質司法966日を耐え抜いた母と息子の往復書簡』(横尾友佳編。五月書房新社)

 オリンパス事件をご記憶だろうか。
精密機器メーカー「オリンパス」(7733。東証1部。東京都新宿区)が約1000億円の損失を「飛ばし」という手法で、10年以上に渡って隠し続けた末に、その負債を粉飾決算で処理した事件。2011年7月に出た月刊会員制情報誌『FACTA』報道で注目され、オリンパスが上場廃止の危機に見舞われる国際的な一大不正会計事件に発展した。
もっとも、主犯のオリンパス経営陣は執行猶予、共犯と見られる監査法人は事件に問われず、粉飾決算の幇助をしたとして、野村證券出身の横尾宣政氏とその部下の2名だけが実刑判決(横尾氏は懲役4年)を受け、現在も服役中だ(再審請求中)。
本書はその塀の中の横尾氏と90歳を超える母との往復書簡を中心に、娘の横尾友佳氏が、一貫して無罪を主張していたにも拘わらず、その反論さえ「人質司法」においては証拠集めなど十分できず、有罪になった父と、自分たち家族と同じような苦しみを味わう人が二度と現れないようにとの思いで編集したものだ。
宣政氏、何しろ一貫して無罪を主張し続けたものだから、反省が足りないということで、起訴後はむろん、公判が始まっても保釈されず、勾留は実に2年8カ月にも及んだ。
その長期勾留のなかで、高齢の母との、もう生きて娑婆で会えないのでは、と嘆く往復書簡の場面など、「人質司法」の恐ろしさがまざまざと伝わって来るが、本書に掲載された『週刊エコノミスト』編集次長・稲留正英氏の解説は何とも衝撃的だ。
横尾氏が粉飾決算に協力した証拠として、検察はあるメモとオリンパス経営陣の証言の2つを上げている。だが、メモの件は控訴審判決で否定されている。そして証言も、関連の民事訴訟で偽証だったと認定されているという。
では、なぜオリンパス経営陣は偽証したのか?
それについては、オリンパス上場維持のためには、某海外銀行の協力が必要だったが、本当のことをいえばその銀行の協力を得られなくなるためと見ている。
一方、横尾氏が実刑になったのは、粉飾決算の幇助以外に、関連の詐欺、マネーロンダリングの2件でも有罪とされたためだが、この追加の2件は、「粉飾の容疑を否認し続ける横尾さんらに業を煮やした検察が、再逮捕、再々逮捕で勾留を長引かせ、精神的に圧迫することで自白させる『人質司法』のために持ち出した=(*デッチ上げた。編集部注)可能性が高い」とまで述べている。

本紙・山岡も、ある関係者から、その余りのやり方に絶望し、事件捜査に関係していたある検事が、その後、検事を辞めたと聞いたことがある。
弁護士にも転身せず、まったく畑違いの職に転身したというのだから、その絶望の大きさがわかるというものだろう。
前出・稲留編集次長は233頁でこう記している。
「オリンパスや監査法人は日本のエスタブリッシュメントであり、リヒテンシュタイン王室は日本の皇室と親交が深い。つまり、事実の解明や正義の実現よりも国益へのダメージコントロールを優先した『国策捜査』だったとの推測が成り立つ。付記すれば、郵便不正事件による証拠捏造で、権威が落ちていた特捜検察も、オリンパス事件の『解決』でその名誉を挽回した」。
(1900円+税)

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