去る7月29日、都内で開かれたシンポジウムで麻生太郎副総理兼財務相(72。左写真)が、「(ドイツでは)ある日気がついたら、ワイマール憲法はナチス憲法に変わっていた。誰も気がつかないで変わった。あの手口を学んだらどうかね」と発言、ナチスを支持する暴言だと内外から批判を浴びてから、すでに1カ月が経過した。
この間、5野党党首が麻生氏の辞任または罷免を求める声明を出したが、麻生氏側は「発言は撤回した」と逃げ切り、安倍首相も内閣改造を見送ったため麻生氏はその地位を維持した。そして2人は、昨日5日からロシアで開かれているG20(20カ国・地域)首脳会合に出席している。
だが麻生氏が何の責任も問われずにいることを、かつてナチスに蹂躙された欧州諸国やユダヤ人が認めたと考えるのは甘すぎるだろう。安倍首相が今年4月、「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と日本の過去の侵略・植民地支配を否定するとも受け取れる発言をしたことと相俟って、国際社会の日本に対する視線は一層厳しくなっているのは間違いない。
麻生発言は、いったいどういう場で飛び出したのか。この点に関する報道はほとんどないが、財団法人「国家基本問題研究所」の主催するシンポジウムの席上のことだった。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が理事長を務める同法人(2007年設立)は、田久保忠衛氏(政治学者)、石原慎太郎氏(衆院議員、日本維新の会共同代表)、大原康男氏(國學院大學名誉教授)ら“右翼の論客”が名を連ね、設立以来、憲法(9条)改正や国防軍設立、TPP推進などを提言してきた。福島第一原発事故の発生した2011年の11月には、「選ぶべき道は脱原発ではない」と題する意見広告(上写真)を大手新聞に掲載し原発推進を訴えた。こうしたことから、同法人は、自民党をいわば右から牽引する位置にあると言えるだろう。