筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
今から40年前の1985年の秋。ある極秘プロジェクトに参加していた。翌年3月に刊行される『ベスト・オブ・ラーメン』(文藝春秋)というムック本のスタッフに誘われたのだ。このムック、後々、文春ビジュアル文庫の「B級グルメ」シリーズ(これにも関わっている)の先駆けともいえるもので、画期的だったのは、カラーで原寸大(丼の真上から撮る)のラーメンの写真であった。
この頃、ラーメン店もよく食べ歩いたが、ラーメンのルーツを図書館へ通って探ったり、横浜中華街まで出向いてラーメン丼の元祖を見つけたり、チャルメラのルーツを楽器店で取材したり、なかなか楽しい取材であった。いわゆるラーメンがメジャーなメディアで取り上げられるようになったきっかけにもなったはずだ。
それで思い出すのは1982年に刊行された『東京 味のグランプリ』(講談社)である。著者の山本益博氏はグルメ評論家として有名だが、本書でびっくりしたのは、ラーメン店も高級な洋食屋や寿司屋と同等に採点していたことだ。それから結構有名で客も入っていた某店がけなされていたことで、「その通り。そんな美味くないよ!」と納得した。その一方で、星3つの高い評価で誉められていたのが荻窪の有名店『春木屋』と『丸福』なのであった。どんなもんかなと行ってみたところ、何とすごい行列だ。しかしその時は、お気楽にラーメンを味わうってな雰囲気ではなく、緊張で美味しいかどうかも忘れてしまったくらいだ。



