筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
先日、神保町シアターという名画座で『落葉とくちづけ』(1969年松竹。斎藤耕一監督)を観た。主演は、尾崎奈々と藤岡弘。当時の松竹青春アイドル路線の1本で、グループサウンズの人気グループだったヴィレッジ・シンガーズも登場している。前々回に、橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦、三田明の青春歌謡路線について書いたけど、これもヒット曲を映画のタイトルにして、時のアイドルをからませるやり方だ。この2人、前年の『小さなスナック』(斎藤耕一監督)でも共演しているが、これもパープル・シャドウズのヒット曲だった。
さて尾崎奈々は知らない人も多いかも知れないが、あの当時は、東宝の酒井和歌子や内藤洋子という人気絶頂の2人に対して、松竹が売り出した清純派アイドルで、今観ても、なかなかの存在感。ただし女優というよりもモデル系(背も高い)のお飾りアイドルって雰囲気だ。
一方の、藤岡弘は「仮面ライダー」(71年~)をはじめ、マッチョなヒーローで大活躍、今も強烈なキャラクターで愛されているが、何とこの頃は、純朴で純真な青年。デビュー当時の三浦友和って感じなのだ。『落葉とくちづけ』では、漫画家を目指すペンキ職人の青年役で、尾崎奈々との不思議な出会いのお話が、メルヘンチックでシュールなタッチで展開する。藤岡の一途な青年が初々しく、尾崎奈々との組み合わせもなかなか良い。『小さなスナック』でも、出会いと別れが、ほろ苦く、独特なムードをかもしだしていた。