●条約第34条2項、「越境性」は共謀罪適用条件ではないのか? 本紙でも既報のように、いよいよ「現代版治安維持法」といってもいい共謀罪の審議が本格化する。 法務省、政府は同法は国際的な犯罪組織やわが国のヤクザが対象で、労働組合や市民団体は対象外だから問題ないと主張している。しかし、そんな約束を信じて新設に賛成してはならない。なぜなら、法務省は重大な真相を明らかにせず、したがって、共謀罪適用範囲を、政府や大企業にとって都合の悪い2人以上のあらゆる「組織」にまで拡大解釈する可能性は大いにあり得るからだ。 ただ「同意」しただげで、まだ実行にまったく移してなくても逮捕され得る、近代刑法の「行為」主義に反する悪法ーーそもそも国際テロや麻薬組織が横行する中、これら国際的違法組織を取り締まるための条約を国連が採択(2003年10月)、わが国はこれに署名し、国内法を同条約に対応すべく新設を目指している。 したがって、その趣旨から適応対象となる組織とは「越境性」があることが条件のはず。だが、この条件を厳格化すると十分問題組織を取り調べられないという米国やフランスの意見が通り、結果、条約の第34条2項に、「(条約)締結国の国内法に(略)国際的な性質(略)と関係なく定める」となっている。 ●黒塗り部分には、何が記されていたのか? もっとも、いくら「国際的な性質(略)と関係なく定める」とはいっても、そもそもの趣旨からいってもあらゆる組織をターゲットにしていいわけがない。実際、条文の解釈ノート(公式の注釈)には、「条約の適用範囲を(3条)変更したものではない」とあるのだ。 そこで前出・34条2項の真意を探るため、自ずと関心が向くのが条約の運用を討議した00年7月の第10回政府間特別会合の記録。約2000枚にも及ぶ文書が記録保管されており、共謀罪反対運動をしている者がその情報開示を求め、出されては来たのだが、その肝心な部分は黒塗りだらけだった。 冒頭に掲げたのは、この開示文書のなかでも最重要な会合が行われていたウィーン現地から外務省本庁に宛てられた公電(00年7月27日)の一部だ。 この黒塗り部分には、「わが国の法律にこの条文はなじまない」などとする、会合担当者の苦渋に満ちた見解が記述されていた可能性が高い。ところが、それを明らかにすると、できるだけ拡大解釈し、国内の治安強化にも利用したい法務省、政府にとっては都合が悪いことから黒塗りとしたようなのだ。 「わが国政府は34条2項の『越境性がなくてもいい』旨の条項を曲解し、世界でも例のない拡大解釈で持って国内のすべての団体に対する治安強化を狙っている。これを許しては、“北朝鮮は独裁国家でけしからん!”といえた立場でないほどの悪法ですよ」(共謀罪に詳しい弁護士) ○参考記事 「“治安立法”へ条約を曲解?」(「こちら特報部」『東京新聞』05年7月5日)…