弁護士につき、弁護士として品位を失うべき非行行為があったとする場合、誰でも所属弁護士会にその弁護士を懲戒請求することが出来る。
もっとも、所詮はその弁護士が所属する弁護士会のメンバーがまず調査などすることから、どうしても身内に甘く、実際に処分が出るのは極めて稀とも言われている。だが、これほど甘いのかと思わずにはいられない事案を把握したので、問題提起すべく報じることにした。
したがって、特定の弁護士を批判するのが目的ではない。なぜ、これほどの事案でも、綱紀委員会で審査を求めないと議決されたのか? 一般常識からすればあり得ないのでは? と弁護士会の姿勢を問うのが狙いだ。
その事案だが、2020年10月に懲戒請求された和久田修弁護士(右下写真)のケース。
和久田弁護士は1980年、東京大学卒。88年、司法試験合格(第43期)。民事、刑事事件両方を手掛け、偽メール事件の西澤孝氏、半グレの石元太一服役囚、中核派メンバー、君が代不起立で処分を受けた元教諭(高裁で逆転勝訴)、沖縄返還協定反対デモで警官を殺害したとして無期懲役になった星野文昭受刑者(獄死)の再審請求代理人をするなど、社会を騒がせた事件の代理人を多く手掛けており有名かつベテランだ。 懲戒請求したのは、恐喝事件に問われたN氏(懲役3年の実刑確定で服役)。現在、刑期を終えて出所している。
なお、本紙は和久田弁護士に取材していない。しかし、以下に述べることは、懲戒請求されて所属弁護士会が和久田弁護士に言い分を聞き認定したこと、または本人が事実と認めたことを基本に報じている(N氏は日弁連に異議の申し出をし、現在、日弁連綱紀委員会の調査結果待ち)。
さて、N氏は和久田弁護士が所属する東京弁護士会に懲戒請求した。だが、東京弁護士会綱紀委員会は2023年12月、懲戒委員会に事案の審査を求めないことが相当であると議決した。
恐喝事件で懲役3年の実刑で服役と聞くと、それだけで読者はそんな者の言いがかりではないかと予断を持つかも知れない。
だが、N氏は冤罪で、にも拘わらず有罪となったのは、警察が一緒に逮捕した部下のT氏に、「Nが自分に責任があると言っているのだから、Nに責任があることにすればいいのではないか」、「Nから恐喝でもいいから金を取ってこいと言われたんだろう」と虚偽自白を迫って、T氏がそれに従ったことが大きいとN氏は主張している。
そして、この警察誘導によるT氏の虚偽自白は、N氏だけが主張していることではなく、そもそも和久田弁護士がその主旨のことをN氏に言ったのであり、和久田弁護士が2021年に作成したN氏の「再審請求書」下書きにおいても、N氏の「無罪を言渡すべき明らかな証拠」と主張している。
N氏による和久田弁護士に対する懲戒請求の理由は①預かり金を返済しない、②委任状の偽造、③別件依頼事件の放置ないし任務懈怠と多岐に渡るが、N氏は逮捕・勾留中、和久田弁護士から、前述の警察によるT氏の虚偽自白のことを聞かされた(和久田弁護士はT氏が保釈中に、そういう旨のことを言っていると関係者から聞いたという)ことから、「T氏にこの虚偽自白に関する書面を作成してもらい、裁判でT氏の供述について証拠能力を否定して下さい」と依頼し、和久田弁護士はこれを承諾。
ところが、その後、N氏が何度催促しても和久田弁護士は「分かった」というだけでやらず、N氏の裁判は一審、控訴審、上告審(別の弁護士に依頼)に至ってN氏の実刑が確定したのだがら、最も重大な懲戒理由は③本件被告事件に関する事件処理の放置であることは明らかだろう。
加えて、N氏のこの裁判ではT氏に対する尋問も行われたことから、N氏はその際に警察によるこの虚偽自白の件を和久田弁護士に質問するように頼んでいたが、和久田弁護士は質問せず、「忘れていた」などと言い訳したという。