筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
ジャニーズ問題が連日のニュースになった頃に、どこかのテレビで北公次の告白ビデオが放映されていた。その当時、北公次の証言をまともに取り上げたメディアといったら『噂の真相』だけだった。その記事は今でも覚えている。で、今回の話題はジャニーズ問題…ではなく、その北公次が準主役で出ていた『竜二』(1983年、川島透監督 金子正次脚本・主演)を思い出したのだ。
ちょうど40年前の今頃、試写会で『竜二』を観た。金子正次扮するヤクザが、稼業から足を洗い、酒屋の運搬仕事をしながら、妻(永島暎子が好演)とつましく暮らすのだが、最後は結局ヤクザの世界に戻ってしまう。そのきっかけが肉屋の特売に並んでいた妻の姿を観て、というからヤクザ映画にしては、生活感覚と哀愁あふれる傑作だった。
ちなみに北公次は、竜二の舎弟だったのが、竜二が堅気になってからは急速にのし上がる。貫禄のついた舎弟が訪ねてきたので、竜二が「お前、ヤクやってんのか」と問うと、「ヤクは打つもんじゃなくて、売るもんですよ」なんてふてぶてしく言い返す。
北公次といったら、あのフォーリーブスの典型的なアイドルだったが、この時は凄みがあってびっくりしたのを覚えている。それから5年後にジャニーズ問題で登場するわけだが、今思えば、あの凄みは共通するものがあったような気がする。それはともかく、『竜二』の金子正次は、映画の公開直後に33歳の若さで死んでしまう(末期のガンだった)。