漫画家・新里堅進の主要作品と、彼についての評伝が一冊にまとまった大著が出版された。
今年は「戦後80年」を迎えたが、自民党の西田昌司参院議員が沖縄戦の慰霊碑「ひめゆりの塔」の展示説明は「歴史の書き換え」と発言(のちに撤回)したことをみても、いまだに先の戦争についての自省は政治家からはうかがえない。
沖縄の孤高の漫画家・新里堅進は、本土ではあまり知られていないが、沖縄戦のリアルな描写は、例えば広島の戦中戦後を描いた「はだしのゲン」(中沢啓治)と比肩するものとなっている。
本書収録の沖縄戦に関する漫画は8作品。南風原陸軍病院で治療もされず悲惨な状態で死んでいく兵士、あるいは足手まといだと自決を強いられる兵士の姿が描かれている(「水筒 ひめゆり学徒隊戦記」)。また、西田議員のような人が否認したがる「日本兵による住民虐殺」も真正面から描かれている(「洞窟の中の目」)。上陸してきた米軍も「解放軍」ではなかった。バックナーという高官を日本軍に殺害された米兵は、その報復のため何の武器も持たない住民を一方的に大量殺戮している(「バックナー中将戦士」)。
作者は丹念な取材にもとづいて、多角的に沖縄戦を描いており、埋もれるには惜しい作品群だ。
本書の特徴は、この知られざる漫画家・新里堅進(1946年沖縄県那覇市壺屋生まれ)を取材したジャーナリスト・藤井誠二(本紙・山岡の知人)の評伝とが、その作品と交互に収録されていること。「人見知りで社交性に乏しく、いつでも漫画だけを描いていたい新里」の横顔が垣間見える。
(本体3500円)



