筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
こないだ神保町シアターという日本映画の旧作を上映している名画座で、松本清張原作の映画の特集をやっていて、そこで『けものみち』(1965年。東宝。須川栄三監督。白坂依志夫脚本)を観た。松本清張らしい社会派ミステリーなんだけど、これがなかなか強烈でエグイ怪作で、圧倒されてしまったよ。なにしろ男も女も登場人物がすべて悪でとんでもないキャラなのだ。
まず政財界の黒幕・フィクサーに小沢栄太郎、その手駒として動く山師に伊藤雄之助、ホテルの支配人に池部良、殺人事件を捜査する刑事に小林桂樹、黒幕の下で殺しも請け負う男に黒部進、旅館の女中から小沢の「世話係」としてのし上がってゆく女に池内淳子。各々の出自や絡み合いが、いかにも「昭和の闇」の世界だ。
たとえば小沢は、時の首相にも影響力を発揮し「左翼勢力に対抗する」と、全国のヤクザ組織を糾合し大日本愛国同盟の結成を図ったりしている。これって、1960年安保闘争の頃、岸政権のバックで動いた児玉誉士夫をモデルにしているのは明らかだし、池部が経営するホテルも、あの大火事(1982年)で思い出す横井英樹のニュージャパンを匂わせている。当初は紳士然とした池部良は実はとんでもない悪党で、小林桂樹も真っ当な刑事だと思ったら、池内淳子に欲情むき出しに迫り身の破滅を招く。その池内は濡れ場から凄絶な最期(あっと驚く!)まで、ホームドラマのお母さんイメージとは正反対の悪女ぶりを見せてくれるのだ。