現在のロシア・ウクライナ戦争は、2022年2月、ロシアが一方的にウクライナに軍事侵攻したものとされる。
だが、それは違うというのが本書の主旨。
2014年2月、マイダン革命により親ロ派だったヤヌコビッチ大統領がロシアに亡命。以降、現在のゼレンスキー氏で3代の親欧米派大統領となるが、ロシアが軍事侵攻するまでの約8年の間に、この親欧米政権下、ウクライナ東部のドンバス地方など歴史的にロシアとの関係が深い一般住民が1万4000名以上虐殺された(国連機関もその犠牲者数は認めている)ため、ロシアのプーチン大統領は悲壮な決意の下、侵攻したという。
書名の「天使の並木道」とは、虐殺されたなかには少なくとも237人の子どもが含まれ、その子どもたちを慰霊する碑の名前。
この1万4000名以上の死者のなかには、多くのジャーナリスト、この虐殺に反対したドンバス地方以外の人も含まれており、約600頁の本書の半分近くは、その虐殺の証拠を物語る現場写真、虐殺された者の写真やプロフィールなどで構成されている。
本紙は国際問題については素人だ。
だが、本紙・山岡は著書の田中氏とは知り合いで、拓殖大学日本文化研究所附属近現代研究センター客員研究員を務めるなど、熱心な研究者であることはよく知っている。
「虐殺されたから、戦争を仕掛けていい」とは思わない。
だが、プーチンのウクライナ侵攻に正当性を与えるものとして①ウクライナとNATOの協力関係の深化がロシアの安全保障にとって脅威であること、②「ミンスク合意」(14年から始まったウクライナ東部でのウクライナ軍と親ロ派武装勢力との停戦。東部の親ロ派支配地域に「特別な地位」を与えるとの条件も)が実施されず、ドンバスでの虐殺が続いていることの2つがあることは、ロシア圏現代史の権威である松里公孝氏(東大大学院教授)も著書『ウクライナ動乱』で述べている。
同じく、この分野に精通し、『ウクライナ3・0 米国・NATO代理戦争の裏側』(社会評論社)など多くの著書がある塩原俊彦氏(元新聞記者)は、1990年の東西ドイツ統一を機に米国は東方拡大しないとした約束を破り、今回の戦争は、軍需産業の在庫処理のためにも好都合の面もある旨、述べている。
本書によれば、虐殺の中心には、ネオ・ナチ思想を信奉する「アゾフ大隊」などおり、東部ウクライナ人が使用して来たロシア語、信仰の中心であるロシア正教、その他のロシア文化など徹底して排斥されているという。
だが欧米、そしてわが国大手マスコミもそうした“負の真相”を一切報道しないとも。
2014年のミンスク合意以降ずっとウォッチし、ウクライナ=正義、ロシア=悪とする大手マスコミ報道に異を唱え、前出・塩原俊彦氏とのインタビューなどを配信して来た独立系インターネット報道メディア「IWJ」代表・岩上安身氏に意見を求めてみた。
「田中さんの『天使の並木道』は予約しすでに目を通し、4冊購入しています。本書が出たことは世界的快挙です。なぜなら、欧米でも政権に批判的なウクライナ・ロシア問題に関する内容は検閲され、出版できないからです。『ロイター』などを筆頭に、欧米のマスメディアはこぞって(本書指摘の虐殺は)“なかったこと”にしていますが、みんな嘘だらけです。
そんななか、正確な内容で、しかも豊富な現場写真。現地にも行かれているのでしょう。それに掲載しているプーチン大統領のウクライナに関する論文及び講和の邦訳にしても、脚色なく正確。是非、目を通して真実を知っていただきたいですね」。
(3600円+税)