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新藤厚 1951生まれ(73歳)
1971年 週刊誌記者
79年~84年 テレビレポーター (テレビ朝日・TBS)
84年~99年 「フライデー」記者
99年~2008年 信州で民宿経営
2013年より生活保護開始
先週は荒船山にクリンソウを見に行った。
山遊びの愉しみは季節の彩りとその自然の変化にある。
いま山は新緑から山野草の花の季節にうつろい、どの山も花々が老人の目を愉しませる。
荒船山は日本ではめずらしい山頂部が平らなテーブルマウンテンで、その台地の細い流れのある湿地にクリンソウが群生する。
緑の林間にマゼンタの花色がよく映えている。はつ夏の色合いである。
約1キロの平らな山頂台地は気持ちのいい遊歩道だから歩くときにはいつも歌が口をつく。
登山者と出会うこともめったにないので放歌吟唱する。カラオケなんかよりよっぽど気分がよい。
蒙古放浪歌、唐獅子牡丹、インターナショナル……。(浪人・ヤクザ・革命家)
団塊世代の老人にイデオロギーは無縁だから左右弁別せず、ただ懐かしければいい。反権力ならばなおさらいい。
下山途中に完全装備の群馬県警山岳救助隊の隊員2名と遭遇。
「若い女性を見かけませんでしたか?」
「年寄りしか会わないぜ。……なんだ、また自殺か?」
「そういう情報があったものですから。これから捜索してみます」
船のかたちをした山容の船尾にあたる艫の部分に艫岩という垂直に200メートル切れ落ちた断崖絶壁がある。
実はこの艫岩は隠れた自殺の名所である。すでに20名以上がここから飛びこんで死んでいる。
平成21年に「クレヨンしんちゃん」の作者・臼井儀人がこの絶壁から墜落死した。これは明らかに事故死だったが、それ以来、自殺者が絶えない。
10年ほど前の夏のこと。
いつものように午前にひとりでのんびりと艫岩まで登ってきた。
その断崖を前にしてひとりの若者がぽつねんと立っている。登山靴は履いているが服装が街着で違和感がある。登山者らしくないのである。
なにか感じるものがあったのだろう。長く生きているとそういうカンははたらくものだ。
「さあ俺は下山するぜ。一緒に下りるか」と、声をかけると素直にハイといってついてきた。
下りはじめて5分もしないうちに、その兄ちゃんが問わず語りに口をひらいていうのである。
「ボク、死にに来たんです」
多分そうだと思った。案の定、自殺志願者だった。
聞けば、高崎のドラックストアを展開する会社に正社員で就職したが、長時間労働から鬱になったらしい。本人はブラック企業といっていた。