筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
作家の梁石日(ヤン・ソギル)が亡くなった(1936年生)。
数多くの著作のなかでも印象に残っているのは、タクシードライバーの経験をもとにした『タクシー狂躁曲』(1993年『月はどっちに出ている』の題名で映画化。監督は崔洋一)、自分の父親との壮絶な闘争を描いた『血と骨』(2004年映画化。監督は崔洋一、父親役はビートたけし)かな。
さらに個人的にはベストなのが『夜を賭けて』(2002年映画化、監督は金守珍。主演に山本太郎)だ。
1945年8月14日、敗戦の1日前にB29の大編隊が大阪城近くのアジア最大とも言われた大阪砲兵工廠を爆撃。戦後も膨大なスクラップ鉄屑、金属の山が放置された。大阪のど真ん中に金脈があると、周辺で生活していた在日コリアンたちが侵入してはスクラップを持ち出し、警官との攻防を繰り広げたのである(1955~60年頃)。マスコミは彼らを「アパッチ族」と呼んで、作家の開高健が1959年に『日本三文オペラ』という小説を書き、小松左京もSF小説仕立てで「日本アパッチ族」(1964年)を書いた。
こちとら高校3年の時、『日本三文オペラ』を、浪人時代に『日本アパッチ族』を読んで、あまりの面白さに夢中になった。
それから数十年を経て、『夜を賭けて』を読んで、またまたアパッチ族に魅入られてしまったのだ。そもそも大阪城の周辺で、戦後10年以上も軍のスクラップが残されていたこと自体がすごい。おまけに堂々と集団窃盗するところが痛快でスリル満点なのだ。