今年1月の能登半島地震の死者は、6月28日現在、281人(うち災害関連死52人)となった。熊本地震(2016年)の死者数276人(うち関連死226人)を上回る大災害である。
政治ジャーナリストとして知られる鈴木哲夫氏だが、自然災害と防災についても30年以上、現場取材を重ねてきたという。
本書冒頭で怒りを込めて述べる――「自然災害は、命を奪い郷土を破壊する、とてつもない有事だ。防衛費は増やしても同じ有事の防災対策にはなぜもっと予算を投じないのか。有事という意識は政治・行政にあるのか」。
著者は、阪神淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震、さらには豪雨、台風、火山噴火、酷暑と様々な災害取材を重ねてきた。そこで得られた“教訓”が本書に詰まっている。
たとえば、「有事の際の危機管理は、常に最悪の状態をまず想定して、そこから次第に狭めていくという、通常の行政手続きとは真逆の対応をしなければならない」(第3章 災害対応も「安全保障」である)という教訓がある。
しかしその観点から能登半島地震における岸田政権の初動対応をふりかえると、「官邸の決断や指示が遅かった」(自衛隊OB)。なぜか。官邸に設置される災害対策本部はその深刻度に応じて段階があり、軽い方から「特定」「非常」「緊急」となっている。ところが岸田首相は被害状況を軽く見て、地震発生直後にもっとも軽い「特定」災害対策本部を設置。「非常」本部が設置されたのは翌2日のことだった。まったく教訓が活かされていない。
阪神淡路大震災では自衛隊投入が遅れたとの批判が根強いが、一方で本書によれば、村山富市首相(当時)は「自分にできることは全責任をとること」と腹を決め、自民党議員を現場に派遣し、「現場が欲しいものは何でもやる。法律違反と言うなら自分が法律を変える」とまで言って送り出したという意外なエピソードも登場する。その村山首相の後押しをしたのが、震災直後に官邸を訪ねてきた後藤田正晴元副総理の「天災は人間の力ではどうしようもないが、起きたあとのことはすべて人災。やれることは何でもやれ」との言葉だったという。
災害対策に責任がある政治家、自治体職員などにはぜひ読んでもらいたい本である。
(2024年5月31日発行。本体1700円)