アクセスジャーナル記者 山岡俊介の取材メモ

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未株詐欺で被害数十億円か――訴状に見るその大胆手口

今年2月、三重県津地方裁判所四日市支部に訴状を提出したのは、四日市市に住む会社社長K氏。
被告はA社(東京都渋谷区)なる株式会社、同社執行役員の清水一孝氏(右下写真)など2法人、3個人だ。
訴状によれば、K氏は清水氏から勧められ、昨年5月29日、A社の未公開株式30株(1株500万円)を1億5000万円で購入したつもりだった。
清水氏と、提訴したK氏は知り合いで、繰り返すが、A社執行役員のその清水氏から「2025年末までには上場予定。上場すれば株価は最低でも10倍、目標は30倍です!」と言われたからだ。
これだけ聞けば、よくある未公開株詐欺と思われるかも知れない。
だが、まず、このケースが特異なのは、一般的な未公開株詐欺は上場するという会社外の営業マンが勧誘している(違法)。だが、このケースでは執行役員で、知り合いの清水氏が勧誘。しかも、上場時期を来年中とハッキリと告げたことから信じたそうだ。
ただし、その手口は何とも大胆なものだった。
まず、知り合いということもあってだろう、清水氏が勧誘して来たのは、K氏が1億5000万円振り込み前日だった。
「1億5000万円の株式を買ってくれる予定者がキャンセルしてきた。明日が振込期限。急な話なので、通常は1株700万円のところを500万円にしておく」(清水氏)
勧誘した当日に、すぐ決めて1億5000万円払ってくれと言って来たというのだ。
これだけでも何とも大胆だが、ここからがもっと大胆な手口。
時間がないからということで、翌日、振り込んだわけだが、その際、「都合により、1億5000万円は(A社ではなく)私(清水氏)の方で受領。その後、A社に送金します。時間がないので、契約書などは後日郵送します」旨言い、K氏は清水氏の口座への送金は不自然とは思ったが、時間がないというし、清水氏はA社の執行役員だからそれに従った。
ところが、振り込んだものの、一向に契約書などが送られて来ない。3カ月経過してもだ。それで催促したところやっと届いたのだが、それは当初の話とまったく違う書面だったという。
簡単に説明すると、清水氏が取締役を務める、K氏はまったく聞いたこともない別会社がA社の株式を「代理購入」したことになっており、また、振り込んだ1億5000万円は、その別会社が借りたことになり、「金銭消費貸借契約書」などの書類が届いた(以下に転載) のだ。

その後、K氏が清水氏や、A社のS社長に抗議したり、確認を求めたわけだが、結論をいえば、S社長はK氏との面会に応じず、また書面にてA社の関与も、K氏が30株を保有していることも否定した。
そのため、K氏は主位的には自分がA社の株式30株を有することを確認する訴訟を起こした。ただし、被告のなかにはA社のS社長、清水氏が取締役を務める別会社「Buzzle」(バズル。東京都港区)、それにこのバズル社代表の近藤佐和子氏も被告としており、予備的には、不法行為を理由に1億5000万円の返還を求めている。
この手口だけでも、すでに十分に怪しいことこの上ないが、本紙がこの訴訟の被告を実名で報じている理由は他にもある。
騙されたとするK氏は、当然ながら提訴に至るまでに「詐欺ではないか」旨言って騒ぐ。
すると、バズル社の代理人弁護士が昨年11月24日付で、K氏に対し、今年4月末までに3回に分け5000万円ずつ、全額を返金することを提案しているのだ(左上写真)。違法性がないなら、そんな提案をする必要がないではないか。
また、清水氏の説明によれば、来年末には上場なのだから、すでに主幹事の元、上場準備が本格化しA社のHPにその旨が載っていてもおかしくないと思うが、そんな記載はない。また、大手の信用調査会社データ(今年1月調査)も同様。それどころか、信用調査会社データでは協力を得られず売上高などの業績数値は一切不明。
ただし、A社の名誉のためにいうと、同社の売りは日本初のハイブリットペイメント社員証「TwooCa」を自社開発して、法人に対して営業を行っているとのこと。この社員証を使うと、社内コミュニケーションの充実や従業員管理に役立つ他、VISAプリペイドカードでインターネット決済や提携サービスの利用が可能とのこと。会社としては、給与振込手数料が大幅削減できるメリットもあるという。そうしたことはコート社HPで謳われているし、『ニューズウィーク日本版』などでS社長がインタビューを受けている事実を思えば、それなりの技術力、そして将来性があるとも思える。しかし、だからと不透明な資金導入をしていいわけがないし、そうした疑惑に答えないのはコンプライアンスがダメと批判を受けても仕方ないだろう。
さらに決定的とも思えるのが、この未株詐欺との疑惑を抱かざるを得ないA社の株を売る営業をしていたI氏なる者がおり、途中で恐くなり、被害者側の関係者に、自分が知る得る「経緯」書面を出している事実。
その書面を見ると、清水氏は、過去にもガン新薬を世に出すから上場したら株価が高騰するという名目で未上場株を「ぼったくりの様な値段で売買」し、「荒稼ぎすることをしていた」と記されている。また、今回のA社以外にも、「ウイン〇〇〇〇〇、プロメ〇〇〇と、未上場株を高値で売却して都合が悪くなると音信不通になるという手口で資金を詐取し多くの被害者を出しています」とも。
しかもI氏、自分が勧誘し契約した者のリストも提出している(個人、法人で計200近く。契約者名、契約者の電話番号、住所、株数、株単価まで載っている)。
それによれば、今回提訴したK氏の場合は、前述のようにバズル社がカネを借りた形式になっているが、清水氏はもう1社、「エメラルドケーブ」(大阪市北区)でも同様の形式でA社の株を売りつけていることがわかる。
そして、そのリストによれば、バズル社の方では2020年8月から2023年5月まで計約279株が販売されている。エメラルドの方は2021年9月から2022年11月までで計約87株。
前述のように、通常の販売価格が1株700万円とすれば、700万円×(279+87)=25億6200万円になる。
しかも、I氏以外にも営業マンがいることを考えると相当巨額の未株詐欺被害が出ている可能性がある。

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