筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
ウイリアム・フリードキン監督は8月7日、米ロスの自宅で亡くなった。87歳だった。心不全と肺炎によるという。
最初に注目された映画は『フレンチ・コネクション』(72年公開)で、ジーン・ハックマン扮するハミダシ刑事が活躍する痛快なアクションものだった。
そして大ブレイクしたのが、知る人ぞ知る『エクソシスト』(74年公開)で、当時はオカルト映画と呼ばれて、確かロードショウの初日なんか丸の内ピカデリーの周りが観客で埋め尽くされニュースでも報じられたのだ。そんなわけで少しほとぼりが冷めてから観に行ったが大人から子どもまで凄い人気で、女子中高生なんか悲鳴上げてたよ。悪魔に取り付かれた少女(リンダ・ブレア怪演!)の首が180度回転したり、緑色のゲロを吐き散らしたり、野太い声で下劣な言葉を連発したりと、従来の怪奇恐怖映画の感じとは違って圧倒されたし、悪魔祓い師のことをエクソシストと呼ぶこともオカルト初めて知った。
ゲテモノ扱いもされたが、結構ハイブローな映画だったと思う。ただし日本人には悪魔と神の対決というのはピンとこなかったはずだ。
日本の怪奇ものといったら幽霊、怨霊の祟りが中心で、悪魔憑きというより化け猫や狐憑きの世界だからね。日本映画で妖婆みたいなのがお祓いするシーンがあるけどさ、エクソシストの神父が悪魔と対決するところはリアリティがある。振り返ってみると悪魔憑きというのはカルト宗教みたいなもんだね。
ところで、この1974年前後というのはまたオカルト大フィーバーの時代でもあったのだ。
まず前年にベストセラー『日本沈没』(小松左京著)が映画化され大ヒット。年末から石油ショックで高度成長の時代に終わりを告げると、74年のベストセラーは『ノストラダムスの大予言』(五島勉著)、映画化もされたが、こちらはひどい出来だった。同じ頃、ユリ・ゲラーなる超能力者が脚光を浴び、テレビで例のスプーン曲げを披露すると、日本中の小学生が真似て、給食のスプーンに「曲がれ」と念じても曲がらないので、自分で曲げる子も続出するなど教育問題になった。