筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
公開中の映画『せかいのおきく』は傑作だ。『どついたるねん』(89年)からひいきにしている阪本順治監督の数ある作品のなかでも、斬新でユニークでジワリと心に染み入る。なんと今回の主役は「糞尿」である。
江戸末期、最下層の仕事で生活する若者たちの「青春ドラマ」なんだけど、その仕事が「下肥買い」つまり厠を回って溜まった糞尿を回収してお金をもらう、きつい・汚い・臭いの苛酷な労働なのだ。映画はモノクロだが時々カラーになる。映画の糞尿はもちろん作りものだが、リアリティがあって、臭いまで伝わってくるようだ。この不思議なタイトルについては長くなるので、ぜひ映画を観てほしい。
そこで今回は、映画に触発された昭和の糞尿の想い出だ。年寄り同士が集まって昔ばなしをすると、共通して盛り上がる話題が二つあって、一つは小学校の給食、もう一つが昔の汲み取り便所の話だ。考えてみれば「食べる」と「出す」のセットだな。特に排泄は、おもらし体験も加わって、エピソードも豊富だってわけさ。こちとら小学校はずっと汲み取り便所だった。
1年生のとき同じクラスのA君が大便器から「落ちた」ってニュースが学校中を戦慄させたんだ。大騒ぎになって行ってみると、校庭の隅の水道のあるところで、糞尿まみれのA君に先生がホースで水をバシャバシャかけている。A君はワーワー泣いて、皆は遠巻きにして恐々観ている。A君の恐怖は計り知れない、生涯トラウマを抱えただろう。