筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
松本零士が亡くなった。ニュースや新聞記事などでは、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』ばかりが取り上げられているが、こちとらのおすすめは断然『男おいどん』(『週刊少年マガジン』連載1971~73)だな。これは九州から上京した青年・大山昇太(のぼった)の「金ない・モテない・することない」の青春を面白おかしく描き、松本本人の青春時代も盛り込んでいると言われている。主な舞台は、老朽下宿の四畳半生活で、インキンタムシに悩まされ、押し入れに放り込んだ膨大なパンツにサルマタケなるキノコが生えている。
近所の町中華「紅楽園」で注文するのはラーメンライス。たまに奮発して玉子を入れてもらう。そして下宿には入れ替わり立ち代わり、美女たちが登場し主人公が翻弄されるのだ。ここでのポイントはズバリ、四畳半の安下宿(アパート)である。
そういえば、1973年の大ヒット曲『神田川』や『赤ちょうちん』も、劇画の『同棲時代』でも住処は3畳とか4畳半だ。この頃の、ひとり暮らしの若者といったら学生も労働者も大体3~4畳半で、トイレ共同、キッチン共同、風呂なしは当たり前だった。賄い付き下宿や大学の寮住まいも結構あって、ぜいたく言わなければ70年代は住居費は安かったのだ(1万円以下!)。