在日米軍基地による環境汚染と言えば、数年前、沖縄の米軍基地周辺のあちこちで「PFOS(ピーフォス)」が発見されたことが思い浮かぶ。PFOSは発がん性が疑われる有機フッ素化合物で、人体や環境中に長く残るため「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれており、日本では2010年に製造および使用が禁止されている代物だ。
本書を開くとすぐに目に入るのが、「米軍普天間飛行場から流出したPFOSを含む泡消火剤」とのキャプションの付いた生々しい写真だ(下写真)。沖縄の米軍基地は大半が住宅地と隣接しているため、周辺住民の不安は想像するに余りある。
本書はこれまで明らかになっている米軍基地由来のさまざまな環境汚染の実態をメインに、環境管理はどうなっているのか、諸外国と比べてどうなのかも含めてコンパクトにまとめた一冊となっている。
ベトナム戦争で使用された枯葉剤に含まれるダイオキシンは、発がん性や催奇形性があり、今もベトナムの人々を苦しめている。そのダイオキシンの噴霧試験を、米軍は沖縄の北部訓練場(一部返還)でもおこなっていた。それだけでなく、あのオウム真理教が使用した猛毒・サリンを沖縄に持ち込み、1969年に知花弾薬庫内で漏出事故が発生していたという驚くべき事実にも触れられている。
ところが、在日米軍は「日米地位協定」に守られて、こうした環境汚染の責任をとらず、被害者に補償をせず、修復の義務すら負っていない。これがいかに異常なことなのかは、第6章の「諸外国における米軍基地の環境管理」で、ドイツと比べるとよくわかる。日本と違い、米軍基地に対してもドイツの国内法が適用され、その被害については米軍が補償し、被害者は米軍に請求することができる。
米軍基地の集中する沖縄は、環境汚染の被害がもっとも多い。「沖縄の犠牲の上に国の安全を保障しようとする事態をこのまま許していいものか」(あとがき)を考えるきっかけとして、本書が広く読まれてほしい。
著者・田中修三。1952年生まれ。明星大学理工学部教授・工学博士。発行元・五月書房(本体1800円)。