「もしかしたら自分はうつ病かもしれない」。そう思って精神科を受診しようとしている方は、まず本書を読んでおいた方がいい。とりわけコロナ禍で、「自粛うつ」とか「テレワークうつ」といった“病名”がマスコミで飛び交い、早期治療が勧められている。しかしこれらは「何の科学的根拠もなく」不安を煽りたてる無責任な言説で、不必要な受診につながっているのだ。
著者は序文で、まず読者にシンプルな疑問を呈す。コロナ禍以前の20年間で、気分障害(うつ病、躁うつ病)の患者は3倍に増えている。当初、抗うつ薬が販売開始された1999年頃、「薬を飲めばうつは治る」と言われた。しかし20年たっても患者は減っていない。なぜなのか?
この疑問から出発して、造られた「コロナうつ」のビジネス的キャンペーンと、「問題点だらけの精神医療の実態」が暴かれていく。不必要な「治療」によって薬漬けにされて逆に精神状態が悪化したり、自殺にすら至るケースが具体的な事例をもとに述べられており、衝撃を受ける。
多剤大量処方といった「問題のある精神科医は3割以上」もいるという。なぜそれほど多いのかというと、「保健所の医療機関への指導は無力」であること、患者が“治療”で症状が悪化しても、医療機関を訴えることは極めて難しい、という現実があるからだ。
そうは言っても、著者は精神医療そのものを否定しているわけではない。精神医療の世界は、私たち素人が思っている以上に“ブラック”なのが実態であることを知っておくこと、精神医療の「専門家」に無批判に追従すべきでないことを著者は訴えている。
なお著者、米田倫康氏は「市民の人権擁護の会」日本支部の代表として、これまで精神医学における人権侵害を調査・摘発し、精神治療の分野を正常化することを目的とする活動をしている。本紙でもこれまで、著書『もう1回やり直したい――精神科医に心身を支配され自死した女性の叫び』や『発達障害バブルの真相』を紹介したことがある。あわせてお読みいただきたい。
(定価990円)