筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
久しぶりのB級グルメの話題だよ。最近気になっているのは「街中華」という言葉だ。
いわゆるどこの街でもあった普通の中華屋さんのことを指すのだが、これがここ数年、脚光浴びて、テレビのワイドニュースでも取り上げられたり、街中華の「名店」を集めたムック本や、雑誌の特集とか、街中華専門家みたいな人も出てきた。そこでわしも本屋に行って「東京ノスタルジック街中華」(タツミムック)という本を購入した。キャッチには「庶民の舌と心の故郷……それが『街中華』だ!」なんてある。う~む、すごいね。
ひと昔前、この「街中華」がこんな風に取り上げられることはなかった。街中華とは、まあ何でもありの中華食堂のことで、一番安いメニューがラーメン、そしてワンタン、タンメン、もやしそば、餃子、チャーハン、天津丼、麻婆豆腐、上海焼きそば、五目そば、冷やし中華(夏場のみ)、ニラレバ炒め、肉野菜炒め、焼売(シューマイ)、八宝菜、酢豚なんて定番メニューがズラズラ並んでいる。
あらたまっての会食ではなく、ちょいとご近所でお昼ご飯。特にこの味がどうだこうだはこだわらない。まあ街中によくあったおそば屋さんの中華版で、どこの街でもありがちで、特に美味いとか不味いというわけではないが、日常的にはなくてはならない存在、そんなところか。
街中華で思い出すのは高校時代。学校の近くにごく平凡な街中華の店があって、時々学校帰りに友達と立ち寄った。ここでよく注文するのがタンメン。ラーメンが80円で、タンメンが100円なんだけど(1970年頃だ)、タンメンの方がはるかにボリュームがある。ただし肉なんて豚のコマ切れが数切れなんだが、野菜がたっぷり。そこにラー油をたっぷりかけて食う。