4基もの原発が大事故を起こして1年余り。事故の原因究明もできていないのに、野田政権は「安全基準をクリアした」と大飯原発の再稼動をめざしている。国民の多数は再稼動に反対にも関わらず。 「主権者」はいったい誰なのか、誰しも疑問を覚えるだろう。 事故直後の対応もそうだ。放射能拡散についての正確で迅速な情報公開がなかった、というだけではない。情報公開の範囲や、放射能の「安全性」についての基準も、政府が恣意的に決めてきた。主権者は国民である、という憲法の核心、理念がそもそも政府には欠けているといわざるをえない。 本書の著者・日隅一雄氏は、フリーの立場で政府・東電の記者会見を追い続けてきた第一線のジャーナリストである。その取材経験をふまえ、本書では、なぜここまで主権者である国民がないがしろにされているのかを考察している。 実質的に主権を握っている官僚組織、市民的自由を制約されている裁判官、そして監視役としての役割を放棄しているマスメディア・・・。こうした事態を改め、本来主権者であるべき国民がいかにしてそれにふさわしい力を身につけていけるのか。それが本書の核心部分であるといえよう。 ぜひ本書を手にとって読んで頂きたいが、一例を挙げれば、以前、本紙でも紹介したことがある審議会(政府が新しい政策を諮問するときに設置される)の改革だ。イギリスの「公職任命コミッショナー制度」を手本に、政官業の癒着を断ち切り、公正中立で市民の立場に立った審議会に改善しようという提案である。 「戦後、私たちは主権者として振る舞うことをわすれ、あまりに多くのことを国会議員、そして官僚に任せすぎた」という反省が、著者にはある。政治家や官僚を批判するだけでこと足れりとしていては、もはやこの国の崩壊を押しとどめることはできない。私たち自身が正しい情報を選び、積極的に政治参加していくことが求められている(岩波ブックレット。本体500円+税)…