朝日新聞といえば、「ネットカフェ難民」と言われる日雇い労働者の取材や、キャノンの偽装請負問題の追及など、立場の弱い労働者への取材をしっかりおこなっている。そんな印象がある。
ところが、その朝日新聞の英字紙「ヘラルド朝日」で働く人たちは、労働者としての権利は一切認められず、労働組合をつくればつぶされるというひどい労働実態にあることが、編集部員たちが起こした裁判(2005年~)によって明らかになった。
労組を結成した途端、はげしいイジメが
ヘラルド朝日労組のメンバーとして、労働者としての地位確認を求めて朝日新聞を訴えている、現在フリーで通信社記者をしている松元千枝さんにお話を伺った。
英字紙ヘラルド朝日では80人弱の人々が働いており、朝日新聞の正社員や、アルバイト、派遣労働者など細分化された形で編集スタッフが構成されていた。しかしそのなかに、そのいずれの雇用形態にも該当しない人たちがいた。フルタイムで働いているが、日給制で、雇用保険も社会保険も、労災も一切ない人たちだ。20人ほどそうしたスタッフがいたが、松元さんもその1人。
あるとき、嘱託契約で働いていたアイルランド人(労働運動が盛んな国柄)の記者が、松元さんたちの労働実態に疑問を持った。そこでまず、主に正社員で構成する朝日新聞労働組合に相談したが、正社員の雇用確保で精一杯、「そこまで面倒は見切れません」と断られたそうだ。そこで、不安定雇用で働くスタッフが集まって、2002年11月、18人で「ヘラルド朝日労組」を結成した。ところがその途端、予想しなかったほどの会社側からの圧力がはじまったという。「まさかこんなことができるのか、と。昨日まで『千枝ちゃん、元気』と言っていた人が、労組を結成した後は、目も合わさず、一夜にして話もしなくなる。記事の相談をしたくてもできない雰囲気になったんです」「ある翻訳担当の人は、それまで重要な翻訳を任されていたのに、急に商品の解説といった初歩的な仕事しか与えられないようになった」「私自身も『あなたはちょっと別だから』と露骨に差別されました」「いじめがつらくて労組を脱退すると、今度は手のひらを返したように、食事に連れて行ってもらった人もいるようです(笑)」。