筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
7月に公開された韓国映画『密輸―1970』(リュ・スンワン監督)は、ベタでコテコテの70年代カルチャーがテンコ盛りのゴキゲンな傑作だった。
物語は1970年代、海女たちが海洋密輸に利用されるという犯罪と冒険のサスペンス&アクション。当局の摘発をかわすために金塊の詰まった密輸品を海中に沈め、それを海女たちが素潜りで回収するという、それだけでもスリリングな話だが、ここに女たちの対立と友情、連帯と団結が織り込まれ、密輸組織とチンピラやくざ、組織とつるむ税関幹部らを相手に、痛快な反撃に乗り出す様は、1970年代の東映バイオレンス、特に池玲子&杉本美紀の「女番長」ものとか、海女映画の大傑作『人魚伝説』(1984年 池田敏春監督)を思い出した。
そんなわけでお話自体も面白いが、もっと興奮するのは、1970年代の流行歌、ファッション、ヘアースタイル、セリフ、流行りもの、雰囲気がきっちりと描かれていることなんだ。韓国なのに、そこは日本と共通するとこが多い。たとえば、韓国歌謡曲が、初めて聴く曲ばかりなのに懐かしい。男女それぞれのカラフルでポップなファッションも、ヒッピー&ディスコカルチャーごちゃまぜで、チンピラやヤクザの幹部もいかにもでそれっぽいのも良い。「最先端のオシャレ」が時を経て「超ダサ」(ベルボトムのジーンズとかパンタロンルックとか)ものになって、さらに時が経って熟成されて、カッコイイとなる、そこにハマってしまうのだ。
とりわけ「やったぜ!姉御」と言いたくなるのが、主人公に扮したキム・ヘスなんだ。雰囲気的には70年代東映の杉本美紀に近いが、海女というキャラクターでは、『人魚伝説』の白都真理か。これ題名だけ聞くと人魚と人間の叶わぬ恋みたいなファンタジー・ロマンスを連想するかも知れないが、とんでもない。原発を誘致する一派によって漁師の夫が殺され、復讐鬼と化した海女の主人公が、あらゆる武器を駆使して復讐する凄絶なバイオレンスものなのだ。もうクライマックスは大魔神のごとき大スペクタクルが展開するんだが、肝はやっぱり海女という設定。素潜りのシーンは圧倒的に素晴らしい。なので、海女つながりではさらにNHKの朝ドラ『あまちゃん』(2013年)も加えたいね。考えてみればこれも昭和レトロの香りがする。