筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
先日、レンタルDVDで『小さなスナック』(1968年松竹映画 斎藤耕一監督 主演・藤岡弘 尾崎奈々)を観た。もう40年以上も前に文芸坐のオールナイトで観た以来なんだが、なんでこれを選んだかといえば、パープル・シャドウズの大ヒットした主題歌が懐かしいというのもあったし、あの時代のスナックと今のスナックの大きな違いを見きわめたいと思ったからだ。
今はスナックといえば大体カラオケで常連客が歌いまくるという感じだが、この映画や歌のなかでのスナックは、そもそもカラオケなんてものは存在しない(ジュークボックスはあったが)。パープル・シャドウズの『小さなスナック』が流行ったのは中学3年の頃で、教室とか学校帰りでも結構口ずさんでいる連中も多かった。
当時は、タイガース、テンプターズ、ジャガーズ、カーナビ―ツ、ゴールデン・カップスといったやや不良っぽいロック系(&歌謡曲)と、ザ・サベージ、ワイルドワンズ、ヴィレッジ・シンガーズといったお上品なフォーク系(&歌謡曲)とに分かれていたが、68年はクラスの女子で一番人気は失神続出のオックスであった。
そんななかで『小さなスナック』は、流れとしてはグループサウンズだがムード歌謡に近い。ポイントは歌詞で、「白い扉の小さなスナック」なんてところが妙にそそられるのだ。映画では、その歌詞をそのまま体現したようなスナックが舞台になっていて、男と女の出会いがある。マスターはなんと毒蝮三太夫! これが決まっているのだ。カラオケはないが、パープル・シャドウズが歌って、ヴィレッジ・シンガーズやジュディ・オング(これがキュートで最高。歌も良い!)まで登場して、えらいゴージャスなスナックなのである。