筆者・田沢竜次(フリーライター)。1953年東京生まれ。編集プロダクション勤務などを経て1983年からフリー。85年『月刊angle』連載を基に『東京グルメ通信・B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)を書き下ろし、また文春文庫の「B級グルメ」シリーズでも活躍。B級グルメライターとして取材・執筆を続け今日にいたる。一方、大学の映画サークルで自主上映するほど映画にも精通。著書に「B級グルメ大当りガイド」「ニッポン映画戦後50年」など。
2回にわたって、放射能と映画について書いてきたんだが、今回もまたその話題。というのは、スーちゃん(田中好子)の死でクローズアップされた、女優として高い評価を得た『黒い雨』(1989年、今村昌平監督)。広島の原爆投下後の黒い雨=死の灰の恐怖と蝕まれてゆく身体、戦後続いた「原爆症」への差別・偏見は、まさに今日の原発事故をめぐる恐怖と差別に通底する。25日の告別式で披露された震災被災者へのメッセージは、原発への怒りも込められていると見たぞ。その怒りは、『黒い雨』に打ち込んだからこそだと思う。だってその時間に天候も急変、千葉県では竜巻まで起こったじゃないかよ。
その前日、たまたまBSで放映していた日本映画『若者たち』(1967年、森川時久監督)を見ていたら(43年ぶりだ!)、佐藤オリエの恋人役の石立鉄男(初々しい青年だった)が、広島で被爆していた。戦後22年という時代のなかで、重くのしかかってくる差別がダイレクトに描かれているわけだが、これまた衝撃的。『黒い雨』も『若者たち』も、共通するのは原爆だが、昨今の風潮につながるものがある。ひと昔前までは、歴史の彼方になりつつあったものが、リアルな今日的なテーマとなって浮上したというわけだ。