●死のわずか1カ月前、19歳年下の元部下女性と再婚の裏側
筆跡鑑定ーー複数の筆跡の特徴を比較し、書いたのが同一人物か、違うか判断すること。遺産相続に関する遺言書(公証人役場で作成されたものなら問題ないが、個人的に保管されていた場合など)、重要な契約書へのサインなど、その真贋が争われた場合、筆跡鑑定人が登場して鑑定書が出される。
子どものころは字体を学ぶ際の手本になった教科書や指導者などの文字の影響を大きく受けるが、大人になるにつれて独自の字体となり、やがて筆跡は固定化し、個人差が生まれる。その特色(字を構成する線の長さ、角度、間隔、書く順番、文字間隔、はね方、筆圧等)を科学的に解明し、判断するという。鑑定人の大半は警察鑑識OBとも言われるが、実際、どの程度の信ぴょう性があるのか。
というのも、04年12月28日、東京地裁で判決言い渡しのあった(控訴せず確定)結婚無効確認請求事件で、関係者がどうにも納得できないとして本紙に訴えて来たからだ。
この訴訟、役所に出された「結婚届」の男性届出人M氏の署名が偽筆だから、結婚は成立しないとして争われたもの。この訴訟が興味深いのは、偽筆したとするK氏、その協力者U氏が原告補助参加人になり、偽筆したと証言したにも拘わらず、裁判官は「本物」と認め、その訴えを退けたからだ。それにしても、なぜ、こんな訴訟が起きたのか。
M氏は99年5月28日、がんのために死去した(享年85歳)。その一年ほど前、妻に先立たれていたM氏、死去のわずか1カ月ほど前に職場の元部下、19歳年下のF子さんと結婚した。その「結婚届」が問題と言われれば、遺産狙いの偽装結婚と思われがちだが、事情はまったく違う。
「先に死去したMさんの奥さんの遺産相続で、奥さん方のU一族はもめていた。Mさんも亡くなると2人の間には子供がいないため、2人の遺産は国庫行きになると懸念していた。だが、MさんがF子さんと結婚、F子さんがMさんの奥さん分の遺産を全額放棄してU一族側に譲るとなればU氏側は3000万円以上得をする」(関係者)
こんな条件をF子さんが一旦は飲んだのは、M氏を尊敬しており、またM氏が結婚を望んでいたからと思われる。
「そのまま結婚すれば、両一族から遺産狙いと批判を受けるのは必至。ならば、以前から面識の有るU氏を通じて遺産放棄を条件に、一方のU一族全員から結婚を全面的に認めてもらおうと」(同)
だが、結婚後、F子さんはその密約(念書など証拠書類はない)を破ってM氏の奥さんの法定遺産分をもらおうとした。そのため、U氏等は偽筆だと暴露したというわけだ。